債務整理|当裁判所の判断|B医師の問診・検査義務違反について

債務整理の受付で診察票を受け取り,診察票の「不眠」と記載され た欄に丸を付けた(乙A1の4頁)。
医師
以下
行動


行動が見られることを説明した。
眠れない様子である。
建築の監督の仕事をしており,責任のある仕事であって,仕事が忙しく, 日曜日くらいしか休めず,ずっと働かされて休む間もなく,ストレスがた まっている。
4月27日ころから,歯ブラシに石けんを付けたり,Dや原告の子の服 を出してきて10枚くらい重ねて着たり,束ねてある古新聞の束をほどい てしまうという行動が見られた。
また,B医師は,Dから,原告が食事を摂れていることを確認した(乙A 1の5頁)。
B医師が原告に質問をしても,原告は何も答えず,そわそわしたり立ち上 がろうとしたりしていた(B証人。
この点,通常全く診察しないで診断する ということはさすがに考え難く,また,4月30日のカルテには,B医師が 原告を実際に診察したと考えられる記載があることから,原告が診察室に入 室したと認められ,上記証言は信用できる。)。
B医師は,精神科疾患の疑いが強いと判断し,紹介状を書いて原告のDに 渡した。
(2) また,平成11年当時の医学的知見として,以下の事実が認められる。
アヘルペス脳炎の臨床症状及び検査所見(甲B2,B3の3,B5の3, B9,乙B1,B10)
臨床症状としては,頭痛や発熱,悪心や嘔吐などの髄膜刺激症状に始ま り,それに後れて又は同時に,人格変化,異常行動,記銘力障害,感覚性 失語及び幻覚等の精神症状を呈し,急速に進行して,けいれんや意識障害 に至る。
運動麻痺の症状は少ない。
(イ) 検査所見としては,脳波では側 頭葉を中心に周期性徐波複合などの異常波がみられ,脳MRIやCTでは 側頭葉から前頭葉にかけての限局性の病変がみられ,髄液では10〜10 00/m程度の単核球優位(病初期にはしばしば多核球も多い)の細胞 増多と蛋白増多を示す。
ただし,発病数日間は,CTで異常の見られない ことが多い。
イ鑑別診断
(ア) 脳炎様症状を呈する疾患には,細菌性髄膜炎,結核性髄膜炎,マイ コプラズマ脳炎,リケッチアによる脳炎,寄生虫・原虫感染症,急性び まん性脳脊髄炎,神経ベーチェット病,膠原病,サルコイドーシスによ る脳障害などがある。
鑑別困難な場合もまれでなく,そのような場合は 両方の治療を行う(甲B4の2)。
(イ) 発熱,髄膜刺激症状,脳症状(幻覚,妄想,異常行動などのいわゆ る精神症状,意識混濁,けいれんなど)のいずれかが現れたときにヘル ペス脳炎の疑いが発生する。
発熱や髄膜刺激症状を伴わず,脳症状で始 まる例が約15パーセント存在することにも留意が必要である。
この時 期に鑑別する疾患は多彩であり,ヘルペス脳炎についてもその可能性が あるとしかいえない。
この時期に集中的な検査と綿密な観察を行い,1 日でも早く確定診断を下せるように努力することが重要である。
髄液で の単純ヘルペスウイルスDNAをPCR法で証明することが脳炎発症の 初期診断としての価値が高い。

民事再生手続開始の申立て

被告は,平成17年4月14日,「A病院のあり方について(案)平成17年4月14日作成」と題する文書を作成した。同文書には,前記ウと同様,被告の助成がなく,自立してA病院を経営し,被告や銀行からの借入金を解消するためには,民事再生手続開始の申立てを選択せざるを得ないことが記載されているが,それに加えて,A病院の譲渡先の確保ができない場合についても検討された。
その内容は,「B組合が引き続き,自立運営化に取り組まなければならない。」とした上で,銀行からの借入金の処理について,「銀行を取り巻く環境が厳しく,今後の融資継続が困難なため,借入額の減額や解消に取り組まなければならないが,自立するまでは,市の補助が前提となるため,速やかな解消等は難しい。
債務免除等を銀行に求めたとしても,任意又は特定調停による銀行の同意は難しいと思われるため,裁判所が債権者の多数決による債務免除を認可する民事再生法を選択せざるを得ない。」としつつも,被告からの借入金の処理については,「銀行債務が解消している場合,任意や特定調停による処理も考えられるが,これらの処理は,債務免除益の課税を回避できないため,B組合は支払不能により,解散せざるを得ないことになる。
したがって,新たな(医療)法人を設立するなど,病院運営の継続性を確保する必要が生じる」というものであり。,銀行からの借入金を解消した上で,民事再生手続開始の申立てによらない方法をとることについても検討が加えられている。

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早期治療が重要であり,特に昏睡に至る深い意識障害,けいれんの頻発, 脳圧亢進を認める症例の予後は極めて不良である。
(3) 4月30日までに,実際に原告に現れていた症状として認められるのは, 同月23日から見られた38度程度の発熱,?同月25日から見られた頭 痛,同月27日以降の異常行動・不眠,?同月30日の被告病院における 行動(質問に答えない,そわそわして立ち上がろうとする等),?E病院に おいて,昏迷,途絶,見当識障害,記憶障害及び脳浮腫の疑いがあるとされ たということであり,そのうちB医師が把握していたのは,上記である。
この点,上記からすれば,原告は,遅くとも4月27日にはヘ ルペス脳炎に罹患していたと考えるのが相当である。
そして,B医師は,4 月30日に原告を診察した際,ヘルペス脳炎の鑑別に必要な検査を行ってい たことは認められない。
そこで,B医師に鑑別義務違反があるかどうかを判断するにおいては,同 医師が4月30日の時点での原告の症状から,ヘルペス脳炎を疑うべきであ ったかどうかという点が問題となることから,以下,その点について検討す る。
なお,上記事実認定によれば,B医師が何ら診察をしなかったという意味 での過失は認められない。
(4) 検討
ア(ア) 上記認定の知見のとおり,ヘルペス脳炎の臨床症状は,異常行動等 の精神症状と,発熱や頭痛の双方が現れるものであり,ヘルペス脳炎は, 早期治療が重要であるとされ,しかも死に至る危険も十分に存在する重 大な疾患であるから,ヘルペス脳炎の鑑別診断すべき必要性は非常に高 いといえる。
異常行動等の精神症状が見られた場合,ヘルペス脳炎を含めた鑑別診 断を行うには,その他の臨床症状の有無,程度等を総合して診断してい く必要があるが,上記の知見によれば,異常行動等の精神症状が認めら れる患者においては,ヘルペス脳炎の可能性も考えて,まず,発熱や頭 痛などの髄膜刺激症状の有無を,問診及び患者を観察することにより確 認すべき注意義務があると考えるのが相当である。
その場合,受診時に おける症状を確認することは当然であるが,異常行動等の精神症状に先 立ち,発熱や頭痛が見られることも多いこと,ヘルペス脳炎における経 過の中で発熱の見られない時期もあり得ること(B証人44頁)から, 診察時の状態のみならず,異常行動の現れた前後も含めて,発熱や頭痛 の有無を確認すべきである。
そして,発熱や頭痛などの症状が見られた場合,ヘルペス脳炎の可能 性が高まることから,確実な鑑別のために,CT,MRI,脳波検査, 髄液検査などの検査を実施すべきである。
(イ) しかし,本件において,B医師は,受診当日及び異常行動の現れた 前後の時期における原告の発熱や頭痛などの症状の有無を十分問診する ことなく,受診時のDからの聴取内容及び原告の診察時の行動だけから, ヘルペス脳炎の可能性を非常に低いものと判断し,精神科疾患であると 判断している。
とすれば,B医師は,ヘルペス脳炎について,十分な問診等をせず, その上で鑑別に必要な検査を行わなかったといえ,法的な注意義務に違 反したといわざるを得ない。
イこの点,被告は,B医師が,原告の診察時において,発熱がないこと, 食事を摂れていることを確認しており,頭痛については原告及びDが告げ ていないことから,ヘルペス脳炎よりも精神科疾患の可能性が高いと判断 したことは問題ないと主張する。
しかし,発熱についてはこれを正確に測定したと認めるに足りる証拠は なく(むしろ,B医師は,神経内科においては,通常体温を測定せず,本 件においても測定する必要まではなかったと証言する。
B証人6頁),か つ,異常行動の見られた前後に原告が発熱していたことを確認したとの事 情も認められない。
食事を摂れていることについては,それだけでヘルペ ス脳炎を否定する理由にはならず,頭痛についても,確かに,Dが問診票 に頭痛の欄があるにもかかわらず丸を付けていないという事情はあるもの の,専門家ではない患者及びその家族が必要な情報をすべて積極的に医師 に伝えなければならないとするのは酷であり,問診により確認できる事項 であれば医師の負担は大きいものではないことから,医師の側で改めて確 認する必要がないとはいえない。
したがって,この点についての被告の主張は採用することができない。
ウ(ア) また,被告は,脳の器質的疾患の症状として挙げられる意識障害に ついては,主に意識の明るさ,すなわち清明度の異常を意味するのが通 常であり,覚醒していないなど,意識の清明度に問題がある場合に初め て意識障害が問題となるのであって,刺激しなくても覚醒している状態 (自発的開眼がある,自分で歩行等できる,食事も摂取できる)であれ ば,通常は意識障害があるとは判断せず,意識清明の状態である場合に, 見当識障害のみを取り上げて意識障害とは評価しないのが通常であって, 原告には,4月30日の被告病院受診時において,意識の清明度として の意識障害が見られなかったのであるから,B医師が,ヘルペス脳炎の 可能性は非常に低いと考えて精神科を紹介したことに問題はないとも主 張する。
(イ) しかし,本件において,原告がB医師の質問に対し,何も答えず, 視線をそらしたり,そわそわして立ち上がろうとするなどしたため,見 当識を確認できる状態ではなかったのであり,そのような状況では,B 医師は見当識障害の有無を確認できていたとは認められない。
そして,意識の清明度の低下を示す尺度として日本で使用されている JCSにおいては,見当識障害があれば,軽度の意識障害(?−2)に 当たるとされており(甲B5の1),見当識障害の有無は,意識障害の 有無を判断する際の要素といえる。
また,見当識の障害された状態を失見当識というが,失見当識が起こ る原因として臨床的に重要なのは,意識障害,記憶障害(健忘), 知能障害などであり,軽度の意識障害の存在が疑われる場合,見当識 障害の有無がまず確かめられる必要がある(甲B7)。


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頭痛
頭痛及び発熱については,B医師の方からも質問はしなかった。
原告は,診察室に入り,B医師の診察を受けることとなった。
B医師は,原告の血圧を測定し(測定結果は120/80),眼瞼結膜の 視診及び胸部聴診を行った(乙A1の11頁)。